2023~2025年 サプリメントによるドーピング違反を予防するための教育教材開発とガイドラインの策定

2023~2025年 サプリメントによるドーピング違反を予防するための教育教材開発とガイドラインの策定

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K16725

研究課題/領域番号: 23K16725

研究種目:若手研究

 

研究の概要

日本のアスリートは、海外アスリートと比較してドーピング禁止物質を意図的に用いるような違反は極めて少ないです。一方で、サプリメント等、栄養補助食品へのドーピング禁止物質の混入 (汚染)による違反が大学生年代も含め相次いでいます。栄養補助食品は法律上、全含有成分の表記の義務はありません。このように、違反のリスクがあるにもかかわらずサプリメントを使用する意志や信念にはどのような背景があるのでしょうか。本研究は、アスリートのサプリメント使用によるドーピング違反リスクの認識、サプリメントに対する信念、使用意思の決定に及ぼす影響を明らかにし、ドーピング違反を予防するためのガイドラインの策定、教育プログラムの開発を目指します。

 

研究成果 (2023年度)

2023年度

[雑誌論文:3件]

  • 室伏由佳 (2023) 最近のアンチ・ドーピング教育と研究の動向, スポーツとサプリメント ―“Food First but Not Always Food Only”の思索―. 臨床スポーツ医学, 40:1, 50-56. (査読無)
  • Murofushi, Y., Kamihigashi, E., Kawata, Y., Yamaguchi, S., Nakamura, M., Fukamachi, H., Aono, H., Takazawa, Y., Naito, H. The Association Between Subjective Anti-Doping Knowledge and Objective Knowledge Among Japanese University Athletes: Cross-Sectional Study. Frontiers in Sports and Active Living, 5, 1210390. (IF: 2.7) (査読有) Link
  • Murofushi, Y., Kawata, Y., Nakamura, M., Yamaguchi, S., Sunamoto, S., Fukamachi, H., Aono, H., Kamihigashi, E., Takazawa, Y., Naito, H., Hurst, P. (2023). Assessing the need to use sport Supplements: the mediating role of sports supplement beliefs. Performance Enhancement & Health, (CiteScore:4.3) (査読有) Link

[図書1

  • 室伏由佳 et al. (2023) 令和5年度 日本スポーツ協会スポーツ医・科学研究報告, アンチ・ドーピング教育・啓発に関する研究, 公益財団法人日本スポーツ協会, ホクエツ印刷, 東京. (Link coming soon)

[学会発表:3件]

  • 錦織 岳, 川田裕次郎, 中村美幸, 室伏由佳. (2023) 大学生陸上競技アスリートにおける他者提供の飲食物摂取状況及び他者との薬共有の実態把握:アンチ・ドーピングの観点における一考察. 日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会, 同志社大学, 京都.
  • 室伏由佳, 川田裕次郎, 中村美幸, 錦織岳, 上東悦子, 深町花子, 青野博, 髙澤祐治, 内藤久士, 川原貴: 教育受講方式がアンチ・ドーピング知識の定着に及ぼす影響:大学生アスリートを対象としたランダム化比較試験. 第33回臨床スポーツ医学会学術集会, 横浜.
  • 錦織岳, 川田裕次郎, 中村美幸, 高澤祐治, 室伏由佳 (2023) ドーピング検査対応に向けたアンチ・ドーピング対策の実態:大学生陸上競技アスリートのインタビュー調査から. 第33回臨床スポーツ医学会学術集会, 横浜.
  • 山本宏明, 上東悦子, 室伏由佳 2023 eスポーツにおけるアンチ・ドーピング活動の導入. 第33回臨床スポーツ医学会学術集会, 横浜.
日本語版スポーツサプリメント信念尺度

日本語版スポーツサプリメント信念尺度

英語版(原版): Sports Supplement Belief Scale(SSBS)

英語版著者名: Philip Hurst et al.

発行年:2017年

日本語版著者名: Murofushi et al. (室伏由佳)

発行年: 2023年

本研究はJSPS科研費 JP 20K19577/23K16725 の助成を受けたものです。
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number JP 20K19577/23K16725

本研究で使用されているSports Supplement Belief Scale(SSBS)について詳しく知りたい方は、以下のリンクから尺度が掲載されている論文にアクセスしてください。

尺度掲載論文へのリンク: https://doi.org/10.1016/j.peh.2023.100269

  1. 測定概念・対象者

Sports Supplement Belief Scale(SSBS)はHurst et al.(2017)により作成された。この尺度は、アスリートがサプリメントのパフォーマンス向上効果に期待し、それを信じる度合いを測定することを目的としている。

ゲートウェイ仮説 (1, 2) を基に、Hurst et al.はパフォーマンス向上効果に関する信念を評価し、ドーピングリスクが高いアスリートを識別する可能性を探るためにSSBSを設計・検証した (3)。これまでの研究により、サプリメントの効果に対して強い信念を持つアスリートは、ドーピングに対してより肯定的な態度を示し、ドーピングに関与する可能性が高いことが示唆されている (1, 4, 5)。SSBSを用いることで、スポーツサプリメント使用によるパフォーマンス向上等の利益に関するアスリートの個人的な信念を測定することが可能である。

SSBSの原版尺度作成研究では、サプリメントを使用するアスリートは未使用者よりもサプリメントに対する信念が強いことが明らかにされた。また、SSBSとサプリメント使用頻度、使用種類数との間に有意な相関関係が認められている。日本語版尺度(Japanese version of Sports Supplement Belief Scale, SSBS-J)は、Murofushi et al. (6)が原版の作者たちと共に開発し、その信頼性および妥当性が検証されている。原版は英国のアスリートを対象に開発されたが、日本のアスリートにおいてもサプリメント使用者のSSBS得点が高いなどの同様の研究結果が得られている。対象者はスポーツ活動を行うアスリート全般であり、スポーツサプリメントの使用者および未使用者の両方に適用可能である。

  1. 作成過程

逆翻訳法により日本語版尺度を作成し、日本の大学アスリート356名のデータより、妥当性・信頼性の検討を行った。

 

  1. 妥当性

構成概念妥当性の検討を行うために、第1コホート(131名)を対象に探索的因子分析を行った結果、第1因子の固有値は3.724、累積寄与率62.07%であり、原版と同様に6項目1因子構造であることを確認した。次に、基準関連妥当性の検討を行うために第2コホート(224名)を対象に確認的因子分析を行った結果、潜在変数(因子)と観測因子(経路係数)の比は、0.076から1.04の範囲であり(Fig. 1)、すべてのパス係数は p < .001 で有意であった。適合度指数は許容範囲内であった(RMSEA = .111, χ2/df = 33.673 [p < 0.001]、GFI = .948、AGFI = .878、CFI = .967、TLI = .946)。

Fig.1 SSBS-Jの確認的因子分析のモデル.
Model of confirmatory factor analysis for the SSBS-J.

. 信頼性

Cronbachのα係数は.876であり、日本語版SSBS-Jは高い内的一貫性を示した。I-T相関分析(Item-Total Correlation Analysis)は、すべての項目で .649から .754の範囲で強い相関を示した。

この尺度の信頼性をさらに検証するため、大学生アスリート47名を対象に、緩衝項目の有無を変える2つの条件(緩衝項目Group A:有りから無し、及びGroup B:無しから有り)でパラレルテストを行い、方法論的介入がSSBS-J得点に影響を与えるかを調査した。この予備研究では、ICC値が .74Group A)及び .08Group B)と算出され、t検定による得点の比較では、緩衝項目の有無による有意な差異が示されなかった(Table1)。これにより、緩衝項目の導入がSSBS-Jの信頼性に影響を与えないことが確認され、尺度の信頼性がさらに支持された。

 

Table 1. 群間のSSBS得点の統計的評価
(Statistical Evaluation of SSBS Scores between Groups)

  1. 尺度の特徴

原版のSSBSと同様にSSBS-J1因子構造であり、信頼性・妥当性共に確認されている。質問項目数が6項目と少なく、実施が容易なため、調査対象者への負荷は非常に軽減されている。日本で使用できる有用な尺度の一つである。

 

  1. 採点方法

自分に当てはまるかどうかを、「1全くそう思わない」「2そう思わない」「3あまりそう思わない」「4ややそう思う」「5そう思う」「6非常にそう思う」のリッカート尺度6件法で回答を求め、その項目の得点とする。全項目の合計得点を算出し、得点が高いほど、サプリメントに対する信念が高いと判断される。大学生アスリートにおけるSSBS-Jの合計平均と標準偏差は19.86 ± 5.55点、中央値(25パーセンタイルー75パーセンタイル)は20(17-24)点である。

 

  1. 実際の尺度教示文と尺度項目

[尺度教示文]

サプリメント使用に関する認識について,次の項目に対し、あなたに最もよくあてはまる数字を1つ選んで下さい。
(この設問は合計で6問です。1つの質問に対して1つを選択してください。)

 

Table2. 日本語版Sports Supplements Beliefs Scale(SSBS-J)
(Japanese Versions of the Sports Supplements Beliefs Scale)

 

  1. 日本語版開発時のデータ

線形回帰分析により、SSBS-J得点はサプリメント使用頻度(β = .968, p < .001r2 = 0.164)および使用したサプリメントの種類数(β = 1.886, p < .001, r2 = 0.208)と関連がみられた。具体的には、SSBS-J得点が高いほど、サプリメントの使用頻度が高く、使用種類数の多いことが示された。サプリメント使用者(User: 平均 21.51 ± 6.54点)と未使用者(Non-user: 平均 16.48 ± 6.14点)のSSBS-J得点の比較では、t = 5.916df222p < .001であり、サプリメント使用者の得点が有意に高い結果である(Fig. 2)。効果量(d)0.79295%CI [0.5191.064])であり、影響が大きいことが示された。判別分析により、SSBS-Jの合計得点はサプリメント使用者の64.7%と未使用者の61.0%を正しく識別することが示された(Wilks’ lambda = .864、χ2 = 32.423、p < .001)。

日本の大学アスリート525名のデータをもとに、個人競技(平均 20.09 ± 6.253点)とチーム競技(平均 19.93 ± 6.316点)の得点比較を行った結果、両グループ間で有意な差は認められず(t = 0.288df = 523p = .773)、効果量(d : 0.02595% CI [-0.1470.198])から、効果は非常に小さいことが示される。さらに、全国大会未満(レクリエーションレベル)(平均 19.66 ± 5.926点)と全国・国際大会レベル(平均 20.61 ± 6.851点)の間の比較でも、有意な差は認められなかった(t = 1.664df = 523p = .097)。効果量(d : 0.15195% CI [-0.3300.027])から、効果は小さいことが示される。

 

Fig. 2. サプリメント使用者と非使用者のSSBS-J得点の比較
(Differences in SSBS-J scores between supplement users and non-users)

Note. SSBS-Jスコアの範囲: 6-36点.

  1. 引用文献

  1. Backhouse S, Whitaker L, Petróczi A. Gateway to Doping? Supplement Use in the Context of Preferred Competitive Situations, Doping Attitude, Beliefs, and Norms. Scandinavian journal of medicine & science in sports (2013) 23(2):244-52. doi: https://doi.org/10.1111/j.1600-0838.2011.01374.x.
  2. Kandel D. Stages in Adolescent Involvement in Drug Use. Science (1975) 190(4217):912-4. doi: 10.1126/science.1188374.
  3. Hurst P, Foad A, Coleman D, Beedie C. Development and Validation of the Sports Supplements Beliefs Scale. Performance enhancement & health (2017) 5(3):89-97. doi: https://doi.org/10.1016/j.peh.2016.10.001.
  4. Hurst P. Are Dietary Supplements a Gateway to Doping? A Retrospective Survey of Athletes’ Substance Use. Substance Use & Misuse (2023):1-6. doi: https://doi.org/10.1080/10826084.2022.2161320.
  5. Hurst P, Schiphof-Godart L, Kavussanu M, Barkoukis V, Petróczi A, Ring C. Are Dietary Supplement Users More Likely to Dope Than Non-Users?: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Drug Policy (2023) 117:104077. doi: j.drugpo.2023.104077.
  6. Murofushi Y, Kawata Y, Nakamura M, Yamaguchi S, Sunamoto S, Fukamachi H, et al. Assessing the Need to Use Sport Supplements: The Mediating Role of Sports Supplement Beliefs. Performance Enhancement & Health (2023):100269. doi: doi.org/10.1016/j.peh.2023.100269.
  1. 引用すべき論文と著作権情報
  • 本尺度を用いる際の引用文献情報(SSBSおよびSSBS-J)の開発論文

原版(英語版)SSBS

Hurst P, Foad A, Coleman D, Beedie C. Development and Validation of the Sports Supplements Beliefs Scale. Performance enhancement & health (2017) 5(3):89-97. doi: doi.org/10.1016/j.peh.2016.10.001.

 

(日本語版)SSBS-J

Murofushi Y, Kawata Y, Nakamura M, Yamaguchi S, Sunamoto S, Fukamachi H, et al. Assessing the Need to Use Sport Supplements: The Mediating Role of Sports Supplement Beliefs. Performance Enhancement & Health (2023):100269. doi: doi.org/10.1016/j.peh.2023.100269.

 

日本語版SSBSSSBS-J)著作権

270-1695 千葉県印西市平賀学園台1-1

順天堂大学スポーツ健康科学部/大学院スポーツ健康科学研究科

准教授 室伏由佳

    研究プロジェクト|2020年~現在 日本スポーツ協会(JSPO)医・科学研究

    研究プロジェクト|2020年~現在 日本スポーツ協会(JSPO)医・科学研究

    2020年~現在 日本スポーツ協会(JSPO)医・科学研究



    2020年度より、日本スポーツ振興センター協会(JSPO)医・科学研究の研究プロジェクト班員として、アンチ・ドーピングに関する研究を遂行しています。このプロジェクトでは、アンチ・ドーピングに関するさまざまな課題に対して、科学的根拠に基づく研究を行い、スポーツ界における公正性とアスリートの健康を守ることを目指しています。

    https://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid1384.html

    各年度の研究報告書は以下のリンクからご覧いただけます。


    研究報告書

    2020~2022年度|学生アスリートを対象としたアンチ・ドーピング教育プログラム開発のための基礎研究

    2020年度 研究報告書(第1報)
    2021年度 研究報告書(第2報)
    2022年度 研究報告書(第3報)

    2023年度~|アンチ・ドーピング教育・啓発に関する研究
    2023年度 研究報告書